75歳という年齢を迎えた今、設計という仕事をこれまで以上に「信頼」で成り立つものだと感じています。図面を描くだけでなく、依頼主との約束、行政との手続き、施工会社との連携など、あらゆる場面で「正確で透明な情報共有」が欠かせません。しかし現実には、契約書のやり取りや図面の改訂履歴、許可申請の経過などが紙やメールで散在し、「どの情報が最新なのか」「誰がいつ修正したのか」が曖昧になることもあります。こうした不透明さをなくし、設計事務所の信頼性を高める鍵となるのが、VC(Verifiable Credential:検証可能な証明)という新しい仕組みです。
VCとは、個人や組織が持つ情報(資格、許可、契約など)をデジタル化し、それが本物であることを証明できる技術です。ブロックチェーンのような分散型の仕組みを使うことで、改ざんされる心配がなく、相手が提示した情報の信頼性を即座に確認できます。これを設計事務所の運営に応用すると、大きな変化が生まれます。
たとえば、建築士の免許証や講習修了証をVCとして登録すれば、施主や行政はその真偽を瞬時に確認できます。さらに、図面データや構造計算書にもVCを付与することで、「誰が・いつ・どの段階で承認したか」を追跡でき、設計プロセス全体が透明になります。これにより、依頼主とのトラブルを未然に防ぎ、事務所としての信頼を積み重ねることができるのです。
また、VCは「人の信用」をデジタルで継承する仕組みとしても注目されています。若い設計士がベテランのもとで実務経験を積んだ証明をVCとして残せば、独立後もその実績を確かな形で提示できます。これは、長年培った技術や信頼を次の世代に引き継ぐうえで大きな力になります。
75歳を迎え、私自身も「設計の本質は信頼関係の設計だ」と強く感じています。VCという新しい技術は、単なるデジタル化ではなく、人と人、そして社会との信頼を可視化するツールです。これからの設計事務所は、図面を描くだけでなく、データと信頼を設計する場所へと進化していくでしょう。VCを通して、「安心して任せられる設計」を次の世代へつなげていくことこそ、私たちの新しい使命だと感じています。

